夜空の星座を、地球から離れた場所で眺めたらどう見えるのでしょうか。2026年11月4日に公開された無料ウェブアプリ「時速10万光年(Fly the Milky Way)」は、約194万個の星の観測データをもとに、天の川銀河をブラウザ上で飛び回れる作品です。制作レーベル「3PT STUDIO」を運営する株式会社サードパーティートラストに、初めての人におすすめの旅と、観測データを宇宙の景色にする工夫を聞きました。
URLを開いて、今日の地球から出発
「時速10万光年」公式サイトは、パソコンやスマートフォンのブラウザで利用できます。インストール・会員登録は不要で、料金・広告・課金もありません。公式の概要では、Chrome、Edge、Safariの最新版を推奨しています。
旅の出発点は「今日の地球」。発表によると、太陽系の惑星はNASAジェット推進研究所(JPL)の天体暦と照合した、その日の位置にあります。宇宙船の速度は音速から7段階で切り替えられ、行き先を選んで自動航行したり、自分で舵を切って寄り道したりできます。

たとえば、太陽に最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリへは、1秒に1光年進む設定なら約4秒。作品名と同じ時速10万光年では、銀河中心のブラックホール「いて座A*」へ約16分で到着するというスケールです。これは作品内の移動速度で、現実の宇宙船の性能を表すものではありません。
最初はおまかせツアー。おすすめはこの3コース
操作に慣れていなくても、船が自動で飛び、ナレーションが案内する「おまかせツアー」から始められます。同社によると、全5コースのうち、宇宙に詳しくない人には次の3つがおすすめです。ツアー中の操縦は必要ありません。

太陽系の本当の大きさ
太陽から惑星を順にめぐり、太陽系の外れまで飛ぶコースです。同社が注目してほしいと話すのは、距離を「光の所要時間」で実感できる点。図鑑の1枚の絵ではつかみにくい、惑星の間に広大な空間がある感覚を知る入口になります。
星座は見かけの形
北斗七星を横から眺めます。星座をつくる星は同じ平面に並んでいるわけではなく、地球から見たときに並んで見えるもの。見る場所を変えると形が崩れることを、画面で確かめられます。同社は、この場面を「ここが一番、驚いてもらいやすい場面だと思います」と紹介しています。
となりの星たち
太陽の近くの恒星を訪ねるコースです。夜空の星も太陽と同じ恒星であり、最も近いプロキシマ・ケンタウリでさえ、ボイジャー1号の速さでは約7万5千年かかる距離にあることを考えながら飛べます。同社によると、作品内で速度を上げると、この距離を約4秒で移動できます。
残る2コースは「いろいろな『系』をめぐる」と「天の川をめぐる」。近い場所から広い銀河へと興味が移ったら、別のツアーや銀河マップで次の行き先を探せます。

見えている星は全部「観測済み」? 3つの表示で確かめる
リリースでは、観測が届かない遠い領域を物理モデルで補い、画面でも区別すると説明されています。取材では、その違いを確認できる場所を具体的に教えてもらいました。
- 「表示」パネル:星、星雲、銀河の拡散光、遠くの銀河などの要素ごとにチェックボックスがあり、「観測」または「モデル」のバッジが付きます。Gaiaなどが観測した星は「観測」、銀河モデルから統計的に生成した星や、星間塵が散乱する星明かりの計算は「モデル」です。
- 飛行中の左上:モデルから生成した星が多い場所では、現在地表示のそばに「モデルの星」と、遠すぎて一つずつ観測できていない旨の案内が出ます。観測された星の領域へ戻ると、「地球から観測された星(Gaia / Hipparcos)の領域に戻りました」と知らせます。
- 目的地の情報カード:情報の行ごとに「観測」「導出」「モデル」の区別が付いています。
同社が特に知ってほしいというのは、「モデルの星」は、一つ一つが実在する星に対応しているわけではないことです。銀河の密度や明るさの分布に基づき、遠方を統計的な星で補っています。観測できた星と、分かっている物理モデルで補った領域を区別して見ることが、この作品を楽しむうえでのポイントになります。
明るい星ほど距離の扱いに迷った、開発の舞台裏
観測データを使うことは、数値をそのまま並べることだけではありません。同社が開発上の判断例に挙げたのは、「いちばん明るい星ほど、距離のデータが当てにならない」という問題でした。Gaiaの視差は大半の星で正確でも、とても明るい星では誤差が大きくなる場合があるといいます。
同社によると、星の選定はGaia DR3のG等級11.5より明るく、視差が誤差の5倍より大きい星を基本とし、ヒッパルコス衛星のデータで補いました。約194万個を1個20バイトで収め、データ全体は約39MBになっています。
一方、ベテルギウス、オリオン座の三つ星、ケンタウルス座α星などは、距離のずれが位置に影響するため個別に検討しました。回答では、オリオン座のζ星について、Gaiaの視差4.43ミリ秒角と、論文の値2.584ミリ秒角(距離約387パーセク)が食い違った例が挙げられています。星座の形を正しく見せるため、対象の星は個別論文の距離に置き換えたそうです。
置き換えの根拠として同社が挙げたのは、ベテルギウスがJoyceほか(2020)、ケンタウルス座αがKervellaほか(2016)、オリオン座の三つ星がHummelほか(2013)とOplistilovaほか(2023・2025)。判断の決め手は、作品の「すべての数値に出典をつける」という方針でした。元の値、新しい値、論文名はデータの生成記録にすべて残しているといいます。
スマートフォンでも飛べるように、必要な星から読む
同社によると、最初からすべての星を読み込む仕組みにはしていません。星のデータを、空間を区切る「八分木(オクツリー)」に分け、現在の位置から明るく見えそうな部分を、明るい順に読み込みます。通常画質では読み込む量を16MB、画面側のメモリを64MBまでに抑えています。
遠くへ飛ぶときの位置精度にも工夫があります。カメラとの位置の差をCPU側で倍精度(float64)で計算し、GPUにはカメラからの相対位置だけを単精度で渡す方法です。同社は、これによって太陽から遠い場所でも星がぶれないようにしたと説明しています。
星の色も明るさも、計算で変わる宇宙
発表資料によると、星の色は表面温度から黒体放射を求めて計算し、明るさは観測された明るさと距離から求めています。近づくと明るく、遠ざかると暗くなるほか、2024年発表の銀河の塵の3次元地図に基づき、塵の濃い方向では星が暗く赤く見えます。星や銀河の景色は生成AIが描いた画像ではなく、観測データと物理モデルの計算によるものです。開発ではAIのプログラミング支援を活用しています。
まずはツアーで距離の広がりを味わい、気になった星を選び、表示のバッジや情報カードを開いてみる。きれいな星空を眺めるだけでなく、どこまで観測で分かっていて、どこからモデルで補っているのかを知る楽しみもあります。
利用案内
- 名称:時速10万光年(Fly the Milky Way)
- 公開日:2026年11月4日
- 利用先:公式ウェブアプリ
- 料金:無料。広告・課金・会員登録なし、インストール不要
- 対応環境:パソコン・スマートフォンのウェブブラウザ。Chrome、Edge、Safariの最新版を推奨
- 制作:3PT STUDIO(株式会社サードパーティートラスト)
公式の利用案内では、授業、科学館の展示、自由研究など教育・非営利目的の利用は申請不要です。広告など営利目的の利用は、データ提供元の許諾が必要になる場合があるため、制作元への相談が案内されています。データの出典一覧や詳しい利用条件は作品内の「クレジット」をご確認ください。本作はESAの公認を受けたものではありません。
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