にごり酒に使う米を変えたら、口当たりだけでなく、醪を濾す作業にも違いがあった。丹波篠山の狩場一酒造は、Hyogo Sake 85を選んだ理由をそう説明します。地元の農家と酒米を育てる取り組みについて尋ねると、田んぼで天気や水温を気に掛けることが、酒造りの感覚を保つ経験にもなっていると教えてくれました。
同社は2026年10月27日の発表で、大内農場、かまい農場、吉良農園が運営する「ミチのムコウ」との連携を紹介しています。今回は公開されている農家との取り組みに加え、蔵で実感した変化と、体験企画の参加者から届いた声を聞きました。

田んぼでも蔵でも、天気や温度を見て段取りを考える
大内農場と育てるのは、蔵の田んぼの山田錦。リリースでは、大内農場が苗を育て、田植えを経て、日々の管理には蔵人も関わる様子が紹介されています。苗の間隔や肥料の種類・時期・量を調整する仕事と、蔵での酒造りは、どこでつながるのでしょうか。

一番は農業の仕事の段取りと、お酒造りの仕事の段取りに共通点が多いということです。
狩場一酒造株式会社・取材回答より

同社が挙げたのは、天気や気温、水の温度などを事前に予測し、その日の作業を決めたり、酒の温度管理に反映させたりすること。その年の気候や稲の成長の傾向を、ほかの事業者と共有しながら作業する点にも共通する感覚があるといいます。

米と酒では作るものが違っても、気に掛けるところは同じ。回答では、米づくりを「夏場も酒造りの感覚が鈍らないためのよいトレーニング」と表現していました。田んぼに関わることが、原料を確保するだけでなく、日々の変化を見て仕事を組み立てる経験にもなっているようです。

取材に合わせて届いた写真には、夏場の田んぼを管理する蔵人、収穫前の山田錦、仕込みが始まった蔵の中が写っています。リリースの田植え風景と見比べると、苗から収穫、蔵の仕事へとつながる場面が見えてきます。

Hyogo Sake 85を選んだ決め手は、米の溶け具合
かまい農場は、法人向けの田んぼオーナープログラムをきっかけに、2026年から酒米づくりに挑戦しています。今回の発表では、兵庫県が開発した酒米「Hyogo Sake 85」を、環境に配慮した特別栽培米として育てた経緯が紹介されています。

この米をにごり酒に選んだ決め手を聞くと、狩場一酒造は、仕込んだ際の米の溶け具合が特によかったと回答しました。同社の実感として、口当たりが従来よりなめらかになり、上品な甘さが出たといいます。

違いは味わいの説明だけではありません。蔵では、にごり酒の醪を目の細かいザルのような調理器具で濾しているそうです。米の溶けが十分でないと時間がかかるこの作業が、Hyogo Sake 85に変えてからは、以前より少ない時間と力で進められるようになったと説明しています。

毎年、季節の仕事として蔵に来る蔵人も、その変化に驚いていたとのこと。公開情報にある滑らかな仕上がりの説明の背景には、蔵が確かめた米の溶け方と、濾す際の手応えがありました。作業時間の具体的な数値までは示されていませんが、造り手が選定の理由として挙げた点です。

今回の企画では、かまい農場のHyogo Sake 85から、蔵で初めてとなる純米酒のにごり酒を仕込む予定です。商品の紹介は蔵の公式「酒農連携」ページでも案内されています。
参加者が、天気と丹波篠山の風景を気に掛けるように
吉良農園が企画・運営する「ミチのムコウ」は、米づくりから酒ができるまでを一年かけて体験する取り組みです。2022年に始まり、2026年で5年目。リリースでは、都市と里山の接点をつくり、農業の地域にとっての意味や自然との関わりを考えることも目標に挙げています。

参加者の印象的な反応を尋ねると、同社は、以前より天気や丹波篠山の風景を気にするようになった、という声を紹介しました。特別な催しの日だけでなく、日常の天候や景色への目の向け方が変わったという話です。
蔵にとって、雨や晴れ、田んぼの風景は、米づくりと酒造りを支える大切な環境。回答では、その環境をこれからも守り、ものづくりを続けていくことの大切さを多くの人と共有できたようでうれしかった、と振り返っています。

三つの酒米から生まれる、三つの日本酒
今回の発売案内では、複数の酒米を混ぜず、一つの酒米で一つの酒を仕込む方針が示されています。農家や田んぼの個性を感じてほしいという狙いです。
山田錦から「純米吟醸酒 萌 moe」
大内農場と蔵の田んぼで育てた山田錦を使い、袋吊りで搾る純米吟醸酒。狩場一酒造は、透明感のあるきれいな味わいと旨味を特徴として案内しています。

Hyogo Sake 85から「特別純米にごり酒」
かまい農場の特別栽培米を使う純米のにごり酒です。取材で聞いた米の溶け方や濾す作業の話を踏まえると、蔵がなめらかな口当たりをどのように捉えているのかが、商品説明とつながります。

五百万石から「ミチのムコウ」
農薬と化学肥料を使わずに育てた五百万石から造る、特別純米酒の発泡性清酒。瓶内二次発酵による強いガス感を特徴とし、毎年少しずつ異なる発酵具合も楽しみの一つと紹介されています。

いずれも数量限定の案内です。販売時期や予約・取扱状況は、狩場一酒造の公式案内で最新情報をご確認ください。米の育つ場所や、蔵で感じた仕事の変化を知ると、三つの酒を眺める手掛かりも増えそうです。
酒づくりの素材選びや調整に関心がある方は、清酒酵母で造るウイスキーについて聞いた西堀酒造「哲/TETSU」のワイン樽と香りの設計の記事もご覧ください。酒の種類は異なりますが、造り手が何を確かめて組み合わせを選ぶのかを紹介しています。
本記事は2026年10月27日の狩場一酒造株式会社への取材回答と公式公開情報に基づいています。写真は同社の取材提供素材とプレスリリース素材です。香味・作業の変化は同社の説明で、編集部による試飲・実地検証ではありません。お酒は20歳になってから。MONOLABの取材記事の編集方針。










