炎が照らす、登別の夜。20周年を迎える「地獄の谷の鬼花火」が語る、情熱と絆の物語
北海道が誇る温泉郷、登別。その中でも特に異彩を放つのが、地獄谷を舞台に繰り広げられる夏の夜の風物詩 「地獄の谷の鬼花火」 です。湯けむり立ち込める幻想的な谷に、真っ赤な装束をまとった「湯鬼神(ゆきじん)」たちが現れ、高さ8メートルにも及ぶ火柱を夜空に突き上げる――。想像するだけで、その迫力と神秘性に心惹かれませんか?
2006年の誕生以来、多くの観光客を魅了し続けてきたこのイベントは、来る2025年で記念すべき20周年を迎えます。そして、今年の開催は6月からスタートし、9月は毎週木曜日に開催。9月25日(木)には、いよいよフィナーレを迎えるとのこと。この機会に、ただの観光イベントではない、その奥深い魅力に迫ってみましょう。
地獄の炎が宿る、20年の物語
私がまず驚いたのは、この「地獄の谷の鬼花火」が、意外にも"手作り"の企画として始まった、という事実です。
温泉街の「空白」を埋める情熱
登別温泉には、毎年8月下旬に「登別地獄まつり」という大きなイベントがあります。しかし、当時、そのお祭りまでの夏の期間には、目玉となる夜の催しがなく、温泉街は繁忙期の後に閑散期を迎えてしまうという課題を抱えていたそうです。
そこで、「夜に賑わいを生み出したい」という地元の人々の熱い思いから、2006年に「鬼花火」が誕生しました。登別国際観光コンベンション協会のまつりイベント実行委員長である大宮一哉さんの言葉を借りれば、「もっと昔から続くお祭りかと思っていました」という声が多いのも納得です。それほどまでに、このイベントは登別の夏の顔として定着しているのです。
「湯鬼神」と手筒花火の秘密
イベントの主役は、登別温泉の守り神である 「湯鬼神(ゆきじん)」 です。彼らが掲げる手筒花火の火柱は、訪れる人々の厄を焼き払うと言われています。
通常の打ち上げ花火ではなく、静岡発祥の「手筒花火」が採用されたのは、地獄谷のすり鉢状の地形を最大限に活かし、その迫力を間近で感じてもらうためだそう。しかし、地獄谷は国立公園内。火気の使用には厳しい規制があり、自然保護官や警察への説明と協議には数ヶ月を要したといいます。このエピソードからも、イベント実現にかける関係者の強い情熱が伝わってきますね。
火柱を支える「熱い」安全と「温かい」絆
目の前で火柱が噴き上がる。その圧倒的な迫力の裏には、徹底した安全対策と、地域の人々の温かい協力体制があることを知って、私は感動しました。
緻密に計算された安全対策
手筒花火は、打ち手が筒を直接抱えるのが本場流。しかし、「鬼花火」では、プラスチック製の取っ手をつけて打ち手と火元との距離を確保しています。さらに、衣装は不燃素材、鬼の面にはトランシーバーを仕込み、連絡を取り合いながら安全に配慮しているとのこと。
今年の最年少「湯鬼神」である千葉創太さんが「熱いですよ。水をかけても火傷することがあります。でも、それも含めてやりがいです」と語るように、その熱気は尋常ではないはず。まさに命がけのパフォーマンスを、安全第一で支える工夫が随所に凝らされているのです。
地域を動かす「社会資本」としてのボランティア精神
このイベントは、演者だけでなく、警備や交通整理を担う30〜40人もの人々が全員ボランティアとして活動しています。市の職員、宿泊業の従業員、地元企業の関係者、市議会議員まで、地域全体が一丸となって支えているのです。
大宮さんは「お金より、人とのつながりが力になっています」と語ります。まさに、人と人との絆という目に見えない「社会資本」が、このイベントの原動力となっていることに、私は深く感銘を受けました。このような地域コミュニティの力が、観光イベントの持続性を支えているのですね。
最年少「湯鬼神」に宿る未来への希望
今年、23歳という若さで「湯鬼神」の舞台に立つ千葉創太さんの存在も、このイベントの未来を照らす希望だと感じました。幼い頃から鬼花火を見て育ち、地元企業への就職をきっかけに夢を実現した彼。これまでの最年少が33歳だったことを考えると、若い世代の参加は、イベントの持続性にとって非常に重要です。
なぜ今、有料化なのか?未来へ繋ぐ情熱
2025年から、この「地獄の谷の鬼花火」は初めて有料制を導入します。大人1名500円(税込)、小学生以下は無料という設定です。
「え、今まで無料だったのに?」と驚く方もいるかもしれません。しかし、その背景には「安全対策のさらなる強化」と、「イベントを持続可能なかたちで未来に繋げていきたい」という切実な願いが込められています。
たった500円で、これだけの迫力と、地域の人々の情熱が詰まった「厄払い」の儀式を体験できると考えると、これは破格のコストパフォーマンスではないでしょうか。この料金は、単なる入場料ではなく、登別の夜を彩る文化を守り、未来へ繋ぐための「応援金」だと捉えることもできます。
「地獄の谷の鬼花火」体験ガイド
さあ、この熱い祭典を体験したくなったあなたへ、イベントの詳細情報をお届けします。
開催概要(2025年情報)
地獄谷の闇夜に響き渡る太鼓の音、そして現れる湯鬼神たち。剣と鈴の音が観客を神秘の世界へと誘い、8メートルの火柱が夜空を勢いよく突き上げる20分間は、まさに圧巻の一言です。
- 開催期間: 2025年6月1日(日)~9月25日(木)
- 開催は特定日のみ。特に9月は毎週木曜日開催、9月25日(木)がフィナーレです。
- 場所: 登別地獄谷展望台
- 時間: 20:00~(約20分間)
- 開場: 19:00~
- 収容人数: 1,000名
- 料金: 大人 500円(税込) / 小学生以下は無料
- 入場券販売:
- WEB販売: こちらから購入
- 窓口販売:登別国際観光コンベンション協会窓口でも購入可能(現金のみ)
- 販売は開催日当日の15:00から完売まで、または19:30まで。
- アドバイス: 特にフィナーレは混雑が予想されます。確実に見たい方は、事前WEB購入をおすすめします!
アクセス情報
登別市は、新千歳空港から鉄道、バス、乗用車ともに約1時間とアクセス抜群。札幌からも鉄道で約1時間と、北海道観光の拠点としても非常に便利です。
日本を代表する温泉郷として知られ、9種類の泉質を楽しめる「温泉のデパート」登別温泉や、カルルス温泉、地獄谷や大湯沼といった自然の造形美も満載。花火だけでなく、温泉街全体を存分に楽しんでください。
最新情報はこちらで確認!
イベントの開催に関する最新情報は、必ず下記公式サイトでご確認ください。
- 登別国際観光コンベンション協会ウェブサイト: https://noboribetsu-spa.jp/spot/spot1005/
- 登別市公式note(イベント裏側詳細) : https://noboribetsu-city.note.jp/
炎は、未来へ繋がる狼煙
「地獄の谷の鬼花火」は、単なる観光イベントではありません。それは、温泉街の活気を取り戻したいという人々の願い、困難を乗り越えてイベントを守り続ける地域の人々の情熱、そして、次の世代へと継承しようとする若者の夢が凝縮された、まさに 「新たな民俗儀礼」 です。
湯鬼神が掲げる8メートルの火柱は、訪れる人々の厄を払い、登別の夜を熱く照らすだけでなく、地域の絆と未来への希望を象徴する日本の「狼煙(のろし)」 のように私には思えました。
20周年という節目を迎え、そして有料化によって新たな一歩を踏み出す「地獄の谷の鬼花火」。その情熱の炎は、これからも登別の夜を、そして人々の心を熱く照らし続けることでしょう。この感動と熱気を、あなたもぜひ体感しに、登別へ足を運んでみませんか?